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朝の満員電車に乗ると、マフラーを忘れたことを思い出す。そして次は、胃の中で唐揚げが踊っている光景を想像した。
たった二駅でも密封された空間で、尚且つ身動きが取れない状況となると、つい思考が昨日に戻りそうになるから。
最寄り駅に着くと人の波に押されて外に出た僕は、朝の冷たい空気を肺一杯に取り入れた。
……よし、今日も頑張ろう。
寒さから自然と早足になる。
私立高校は公立より開始時間が早いのか、もう既にパラパラと登校している姿が見えた。
そろそろ心の中で教師の仮面を付けようとした瞬間、僕は足を止めた。
「……っ」
僕が彼女を見た瞬間、彼女もまた僕を見る。そして昨日と同様、すぐに視線を反らすと私立女子高校の敷地へと入って行く。
その行動を見て、咄嗟にカバンからメモ帳を取り出すと、隅を乱雑に破りボールペンを走らせる。
「キミ!」
声を上げると歩いている他の生徒達も振り返る。しかし僕の視界の中には、もう黒髪を翻す彼女しか入ってこない。
僕が近づくと、怯えたように後ずさる。
その理由はわからない。だからこそ、こんな大胆な行動を選んだ。
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