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「……どうして、そんなに悔いた顔をしているんですか?」
「え?」
「私を見る時。カズミさんの話しをする時。何処か悔いたような顔をしている気がして……」
不意を付かれた問いに、思わず固まる。嘘も方便も出てこなかった。
__カズト。
僕の名前を呼びながら、あどけなく笑う顔が脳裏に浮かぶ。
__カズトとありがとう。
誰もいない教室で、そう言ったキミは逃げるように教室から出して行った。
高校二年の冬。十七歳の十二月。
もうすぐ冬休みが始まろとしていた。なのに、キミは僕にその言葉だけを残していった。
もし、あの時引き止めていたら。もし、あの時振られた理由を聞いていたら。
キミは……。
「長谷川先生?」
黙りこんでしまった僕を、ミツハが心配そうな顔で見つめている。
その顔がカズミと重なり、締め付けられた胸からはドロドロとした塊が溢れ出し、それが言葉へと形を変えていく。
「……自殺だったんだ」
「え?」
ゆらゆらと揺れる、切れ長の瞳から目を逸らす。まるで、カズミから逃げるように。
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