接触 《長谷川カズト》

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「十七歳の冬。ちょうど今頃、彼女はビルの屋上から飛び降りた」  僕がそれを知ったのは、次の日の朝のホームルームの時だった。  どよめく教室に紛れた、女子達の啜り泣く声。机の上に置かれた白い花瓶。   教室を飛び出した僕は、寒空の下で一人声を出して泣いた。    涙で濡れた頬。刺し込む冷たい空気。腹の中で蠢く感情。  忘れたくても、忘れることはできない。 「……理由は?」  おずおずと口を開くミツハに、首を横に振る。 「わからない。だけど死ぬ前日に、カズミは僕にありがとうって言ったんだ……」  何もしてやれなかったのに、何も気づいてやれなかったのに、カズミは最後に笑ってそう言った。 「むしろ感謝しないといけないのは、僕の方なのに」  頭が良くて美人で友達も多いカズミと、その頃の僕は正反対の人間だった。  だから僕を好きになってくれたことも、僕を変えてくれたことも、思い返すと感謝することばかりで、感謝されるようなことは何一つ出来ていなかったと思う。
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