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「大丈夫?」
喫茶店を出た私達は同じ方向の電車に乗っていた。
下校ラッシュの次は帰宅ラッシュで満員となった車内で、長谷川先生は私をドア側に立たせると背中を人混みに向けて楯となってくれている。
「……はい。ありがとうございます」
つくづく思う。胸の前で、学校指定のスクールバックを抱き締めていて良かったと……。
そうでなければ、揺れと同時に目の前にある長谷川先生の胸に飛び込んでいた所だ。
「家まではどれぐらい?」
「……一時間ぐらいです」
「え。そうなの? 遠いね。送っていこうか?」
「だ、大丈夫です。慣れてますから」
ペコリと頭を下げると、分厚い胸板に頭突きをしてしまった。
ハッとして顔を上げると、目の前ではくっきりと浮き出た喉仏が上下する。
「す、すいません」
「大丈夫だよ」
低くて掠れた声。私とは違う身体。
意識した瞬間、カッと顔が熱くなるのを感じた。
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