三・事件 《中島ミツハ》

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 学校は女子高。家に帰っても母と二人きり。  男性に免疫のない私にとって、長谷川先生のような大人の男性は刺激が強すぎる。    電車に揺られる度に微かに鼻を掠める香水の匂いも、私を庇うようにドアに突っ張る血管の浮き出た腕も、ただただ心臓に悪い。 「本当に送らなくて平気?」 「はい。今日はありがとうございました」  何度か同じやり取りを繰り返した後、二駅程すると長谷川先生は電車を降りていった。  扉が閉まる前に一度振り返ると、爽やかな笑顔で右手を上げる姿にホッとした。  喫茶店で話していた時、電話が掛かってきてから何処か様子がおかしいように感じていたけれど、気のせいだったのかもしれない。  私は、またゆっくりと動き出す景色をぼんやりと眺める。  ここの所、ずっと不安でずっしりと湿っていた心が、どこかカラッと乾いて軽くなっているような気がする。
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