三・事件 《中島ミツハ》

5/18
前へ
/327ページ
次へ
 まん丸な額。切れ長の瞳。小さな鼻。ぷっくりとした唇。    この顔と、瓜二つの人間が存在するなんて想像がつかない。  しかし私とカズミさんはそっくりで、そのそっくりさんは私の頭の中に響いた名前と同じ名前だなんて……。  一体、何の因果があるというのだろう……。  いつの間にか電車はトンネルを抜け、紺色のベールに包まれた世界が広がる。 “……そっくりだよ。声と、背格好と、性格以外は”  ぼんやりと流れる景色を見ながら、切なさそうに歪む瞳を思い出す。  ユウコは長谷川先生に恋人がいないと言っていたけれど、それは今も心の中をカズミさんとカズミさんに対する後悔の念が、支配しているからなのだろう。    それなら、長谷川先生はどんな気持ちで私を見つめていたのだろう。私と話をしていたのだろう……。  その気持ちを想像すると、切なさでパンパンに膨らんだ胸が割れる音が聞こえた。
/327ページ

最初のコメントを投稿しよう!

169人が本棚に入れています
本棚に追加