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「……そうか。でもさ、例えばニュアンスが違ったとか。冗談で言った言葉がトラウマになってしまったとかは?」
「それもないと思います」
そう断言されては、僕も困ってしまう。
確かに先程の話を聞く限り、ミツハの母親は優しい人なのだろうと思う。けれど、母親も人間である。
何気なく吐いた言葉が、ミツハの記憶には残っていなくとも、心には傷を遺している可能性だって否めない。
しかし、本人がその可能性を断固と否定するのだからしょうがない。
「自分が誰だかわからなくなるのは、例えば身近にあるモノの名前を何回も口に出していると、それが突然何かわからなくなることがあるんだよね。それと似てるのかもしれないね」
「確かに、そんな感じです」
「でも、様子を見て病院に言った方がいいかもしれないね。精神的からくるものなのか、それとも本当にどこか異常があるのかわからないからさ」
「……そうですよね」
ミツハは「病院」と、いう言葉を出しても落胆する様子もなく、納得しているかのように小さく頷く。
その様子に僕はホッとしながら、次の話しに移る。
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