君という名の優しい世界

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「日本の妻はコレを着ると聞いたからな」 本当に昭和のドラマで着物の母ちゃんが着てたみたいな、ベタベタの白い割烹着と三角巾。正直、邪魔くさいことこの上ない。 「だから、そういうのはサムライと一緒で絶滅危惧種だって」 なのに俺も俺で脱がないのは、奴がこの姿ベタ褒めしてくるからだった。もう今日の公式ユニフォームとして割り切ることにした。 「日本の年末年始について調べる過程で、ヒメハジメにたどり着いたんだ。俺の国にはそんな考え方はないから驚いた。さすが日本だ」 何がさすがなのかはさておき、たどり着かないで欲しかった。 「じゃあわかってるだろうけどな、正月はゆっくり過ごすもんだから、そういうのは正月終わってからするもんなんだよ」 テキトーに返しながらキッチン……もとい台所で乾麺の蕎麦を袋から出す。 「そんな風には書いてなかったぜ」 「じゃあその資料だかなんかの不備だな」 彼は唇を尖らせる。 「ハニーは小悪魔だな、そんなことを言って俺を惑わせる」 コタツに入っていた奴が、のっこりと立ち上がって俺の方に来る。着慣れないから着物着崩れしてるし。 「もう蕎麦は後でいいから、俺と一緒にいてくれ」 甘ったれたでっかい図体は、おんぶするみたいにのしかかってくる。     
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