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ギィと鉄格子が開いた音で目が覚める。
彼「やあ。おはよう」
片手に銀のプレートを持って彼は入ってきた。
私に向けられた挨拶は返すことができない。
何故なら…
彼「ふふ。声が出ないんだね。ほらお水だよ」
ゆっくり飲んでという彼の言葉も聞かず、私は水を喉に流し込むように飲んだ。
ゲホッゲホッとむせる私に彼は、ほら、だから言ったのにと言った。
彼「はい。これ今日のご飯ね」
と言って銀のプレートを私に差し出した。
プレートには黄色の液体と、
四角い分厚い紙の上に殺されたヒヨコになれなかった卵が置かれていた。
この前彼に卵の事を教えてもらった。
それから私の好物は卵だった。
私が美味しそうに食べるからと彼は毎日卵を出してくれた。
私の口の中で歯に潰され、転がされる"命"
嗚呼…"命"がぐちゃぐちゃになっていく。
普段ぐちゃぐちゃにされる側に立っているから余計に生々しくて、卵を食べるのが大好きになった。
彼が分厚い紙を小さく切って私の口に近づける。
パサパサしているが意外に美味しい。
そして液体もほのかに甘くて美味しい。
私は時間をかけて完食し彼の合図にあわせ、手をあわせて
ごちそうさま
と言えないけど言った。
まあ手もあわせることができないけれど
彼がプレートを持って部屋を出ていく。
彼が部屋を出ていった後、何もすることがない私はしばらくぼうっとしていた。
いつも通りの無機質な部屋を見回し
ああ。なんにもないなあ。
きっと私は明日も明後日も、その次の日も、そのまた次の日も。
ずーーっとこの何もない空っぽの世界で生きるのだろう。
ああ、なんてつまらないのだろうか。
あれ?
この生活をつまらない?
そんなこと思ったことなど今まで1度もなかったのに。
そもそも私は楽しい生活などした記憶がない。
ならこの生活は普通なのではないだろうか?
でも確かに今、私はつまらないという新しい気持ちを発見した。
はじめて出会った感情だ。
じゃあ結局この生活はつまらないのか?
あれ?
もう何がなんだか分からなくなってきちゃった。
…どうでも良いや。
もう何でも良い。
どんな生活であっても結局私はここで生きてここで死ぬ。
ならどんなものであっても結局は同じことだ。なにも変わらない。
どうでも良い、何でも良い、そう思い私は目を閉じ眠りの底に沈んでいった…
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