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ギィイ
お決まりの彼が扉を開けた音。
彼「…。」
無言でこちらに歩いてくる。
いつもなら何かしら話しかけてくるのに。
…まあ私は言葉を返すことはできないけれど。
彼がまとうこの雰囲気。そして何も喋らないということは…
『イライラしてる』
そう。彼はイライラしている。怒っているのではなくイライラだ。
そしてイライラしてるということは、
ガゴォ!
「うぅっ!」
椅子の足を蹴られひっくり返された。
もちろん、椅子に手首ごと縛られている私は椅子と一緒に転倒する。
椅子の前足を引っかけられ背中を床に打ち付ける。
痛い。それだけ。
最近こういう風にイライラして帰ってくることが多い。
何かあったんだろうか?
彼「ああ、ごめん。少し取り乱してしまったよ。大丈夫かい?」
そう言い椅子ごと私を起こしてくれた。
彼「悪かったね。少し頭を冷やしてくるよ」
そう言い彼は出ていった。
また独りになった私は何もすることなくボーッとしていた。
あまりにも静かすぎたからだろうか?
コンクリートの壁の向こうから彼の声が聞こえてくる。
彼『……ああ…す…じつ…こ…』
…電話?
途切れ途切れにしか聞こえないが誰かと話している。
彼『あいつ……そと…』
あいつ?そと?
そと?…そと?…外?
前に私が彼に外の世界について聞いたことがある。
そしたら彼は確かこう言った。
彼「外はとっても怖いところだよ。毎日毎日疲れるし嫌なことばっかりだよ」
と。
だからここが楽園なんだと。だからここにいろと言ったのだ。
ギィィ
電話が終わったのか彼が帰ってきた。
彼「ごめんね。今日はご飯あげられない」
私の頭を撫でながらそう言った。
私が首をかしげると彼はごめんねとそれだけ言ってまた部屋を出ていった。
また訪れる静寂。
独りになった私は考えていた。
私は外の世界へ出られるのだろうか?
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