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加えて女性の身体には誰かに強く押された形跡があり、突き落とされた可能性もあるとのことだった。事実、警察が現場検証を相当長い時間やっていたのを俺も知っている。結局、その形跡がいつ付いたものか判然とせず、捜査は打ち切りとなった。
どっちつかずの怪事件、心霊スポットマニアが一番喜ぶ終わり方だ。
その日、男はちょっと苛々していたんだ。
当時付き合っていた彼女と久しぶりにデートの約束をしていたのに、仕事がどうしても終わらないとのことで、ドタキャンされてしまったんだ。彼女はメッセージアプリで何度も平謝りし、「いいよ」と男は答えながらも、内心ではこれで何回目だよ、と毒づいていた。
そんな折、勤務先の最寄り駅の掲示板で「I市の伝説コーナー」という特設展示があり、夜泣き石伝説のことを知った。スマホで調べてみると、まさに通勤で使っている電車の沿線沿いだ。
時計を確認するとまだ19時を少し回ったところだった。何せ、彼女とのデートに合わせて定時ぴったりで退社したのだ。
このまま家に帰って自棄酒をあおるには少し早すぎる。夜の公園散歩も気持ち良いかもしれない、と男はS公園に向かうことを決めた。
「せっかく早く退社しちゃったから、S公園に行ってくる。夜泣き石ってのが有名らしい。知ってる?」
駅の展示を撮った写真と共に彼女へメッセージを送る。忙しく仕事をしているのだろう、既読はつかない。
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