小説家さんと実家

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******** 「兄さん食後にお茶飲むでしょ?あ、久しぶりにさくら茶飲む?」 「え、あぁ、それくらい自分でやるよ」 「心配しなくてもやけどしたりしないから」 「あぁ、そう?」  すぐ帰るつもりだったのに祖父母と話しているうちに父が帰ってきて夕食の時間になってしまって。  当時はもっと血の気が多かった父も少しは落ち着いたのか夕食の席では大人しかった。それでも食事が終わったら説教が始まるのかと思っていたのだけれど、父はこちらの想像に反して誰よりも早く食事を終えるとそそくさと部屋を出ていってしまった。  そのあと祖父母が食事を終えて部屋に戻り、母も風呂に行ってしまって居間には弟とふたりっきりになっている。 「まだ七時だけど、いつもこんな感じなの?」 「あぁ、明日も四時から仕事だからね」 「そっか、そういえば理央も九時には寝るんだっけ。じゃあ、あんまり長居できないね」  このまま泊まっていくよう促されたら困ると思い、台所から戻ってきた弟にお茶を飲んだら帰ることをほのめかしておくが返ってきたのはえぇ、という声。 「兄さん、何時だと思ってるの?」 「七時だけど」 「こんな夜中に出歩くなんて危ないでしょ。田舎だって変質者くらい出るんだからね」 「夜中って」  この時間をそう言ったら、普段私がコンビニに行っている時間は何と言うんだろう。早朝? 「そもそも、泊まるって約束でしょ?」 「約束したつもりは無いんだけど」  隣に来た弟が机の上にお茶の入った湯呑みを置き、自分の分のお茶はひと口飲んでから机に置く。 「兄さんはさ、本当にこの先もずっとここに帰ってくるつもりは無いの?」 「だって、帰ったって居場所が無いでしょ」  今日ここに戻ってくるまでそれを実感したことは無かった。  けれど自分が家に居たころは夕飯の前の支度だとかやることはそれなりにあったのに、自分がやっていた役目はすべて他の人がやるようになっていてやらなくちゃいけないことは何も無かった。 「居場所が無いなんて、兄さんはそうやってすぐ冷たいこと言うんだから。ホント、そういうとこだよ」 「それよりさ、理央に訊きたいことがあるんだけど」  せっかく父に説教されずに済んだのに、弟に小言を言われたんじゃ堪らない。そう言いながら壁際に置いてあった自分の鞄を持ってきてノートパソコンを取り出し、それを机の上に置く。
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