小説家さんと実家

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 さっきまでは打ち上げが盛り上がって寝るのが遅くなって、まだ寝ているのかな。なんて無理矢理思おうとしていたけれど、こんな時間になってしまったらさすがにそうは思えない。  自分の身元を隠していたことを謝って、それでも許せないと言われたら諦めるしかないとは思っていたけれどまさかその機会さえ与えて貰えないとは思っていなかった。  それどころか彼だって自分の職業を偽っていたのだから、ちゃんと説明さえすれば分かってもらえると思っていた。  もう、ダメなのかなぁ。  空き時間があるなら宣伝のためにもSNSの投稿でもすればいいのに、自分のページを開く気にさえなれず背もたれにぐったりと寄りかかる。  そりゃ彼はまだ若いから判断を間違えることもあれば他に好きな人が出来ることもあるだろうから、いつかは別れなきゃいけない時が来るだろうなぁとは思ってた。  でもまさか、それがその日がこんなに突然やってくるなんて。唯一私を好きだと言ってくれる人だったのに。  背もたれによりかかったままゆっくりと目をつぶる。悲しいし寂しいけれど涙が出てくることは無い。ただ、辛いなぁと思えば思うほどそれだけ彼のことを好きだったんだなぁとは思う。  彼のおかげでいつもだったらもっと苦しいはずのプロット作業の時期も少しは明るく過ごせたし、自分ひとりじゃない食事も久しぶりで料理をするのさえ楽しく感じた。  思ったより短い期間にはなってしまったけれど彼と過ごした日々のことを思い返していると庵さんから返事のメールが来る。  電話じゃなくてメールってことはこのプロットでオーケーだったってことだろうな。何もしていないときのほうが大河さんのことばかり考えてしまいそうだしさっそく作業に入ろう。  そう思いながらその内容を確認すると思った通りのことが書かれていて、そのあとにこのプロットがいいと思った理由と執筆するにあたって気をつけて欲しいことが書かれている。  庵さん、性格には少し問題があるけれど仕事は出来る人だよなぁ。  そう思いながらその内容を印刷して作業するノートパソコンの横に置き、いつもどおり執筆作業をはじめた。
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