小説家さんと実家

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********  枕元に置いたスマホの着信音で目が覚め、寝ぼけたままそれを手にとって画面を確認すると庵さんと名前が出ていて目が覚めていない状態のまま通話のボタンを押す。 「もしもし」 『能登先生、もしかしてまだ寝ていたんですか?』 「まだ、じゃありません。さっき寝たばかりです」 『今、午後三時ですよ』 「分かってますよ。執筆が順調で、このシーンが終わるまで。このシーンが終わるまでと作業していたら寝る時間を逃すって日が続いてて」 『執筆が順調なのは喜ばしいことですが、締め切りに追われているとき以外は規則正しい生活を送っている先生が珍しいですね。張り切るのは構いませんが体調には気をつけてくださいね』  いつもはそんな言葉をかけられることは無いのに、唐突に気を遣われて目をこすりながらも何かおかしいなと感じる。 「何か、あったんですか?」 『いえ、ここ数日SNSへの投稿が無かったので何かあったのではないかと心配していたんです』 「あぁ、それですか」  言って、眠気を覚まそうと体をベットから起こす。 「それまでは自分が作った食事の写真とレシピを投稿してたんですが、ここ何日か料理をしていないんです。元より見ている人なんていなかったでしょうし、時間の無駄だったかなぁと」 『そうですか。それならそれで構いませんが、心配になるので定期的に連絡はしてください』 「分かりました」  返事をすると少し間があってから電話が切れ、このまま起きて作業に戻ろうかと壁をぼうっと見つめてからさすがにそれはまずいだろう。と再びベットに倒れ込む。  また眠りに落ちてしまう前に念のため、ずっと連絡を待っている彼の名前が着信履歴に無いか確かめるがそこに並んでいるのは庵さんの名前ばかり。  あれから何日もたっているのに、何て女々しいんだろう。  何日?何日たったんだっけ。
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