小説家さんと実家

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「ここまでは車?」  お茶を渡しながらそう問いかけると弟はそれに口をつけてから 「そうだよ」  と答える。 「来るんだったら家を出る前に電話するとか、こっちに着いてからでも連絡くれれば玄関前で待ってたのに」  実家とは違ってバリアフリーになってはいないから、ここまで来るのは不便だっただろうとそう声をかけると弟はさらりと 「エレベーターあったし、通りかかった人に手伝ってもらったから」  と答える。 「突然来て、実家で何かあった訳じゃないよね?」  まさか理央まで父親とケンカをして家出してきたなんて言わないよな。と不安に思っていると返ってきたのは盛大なため息。 「兄さんがSNS投稿しないからうちは大変だったんだよ。昨日あたりから母さんがこれは事件に巻き込まれてるに違いないって言い出して。その時は兄さんも忙しいんだよって俺も言ったんだけど」 「え、母さんインターネットやるの?」  妙な心配をされていることも引っかかったけれどまず気になったのは母が自分のSNSを見ていたということ。記憶では携帯電話だって通話をするのが精一杯でメールさえまともに使いこなせていなかったのに。 「いやいや、やるの?なんてもんじゃないよ。暇さえあればずっとネット見てて。そのせいで心配性に拍車がかかってて」  理央だって母さんに負けてないよ。と思うが言ったところで兄さんがしっかりしてないから。と言われることは分かっているのでそうなんだ。と短く返事をする。 「最近は兄さんがちゃんとご飯食べてるのが分かって安心だわって言ってたんだけど、新しい投稿がされなくなっちゃったもんだから部屋で倒れてるのかもしれない。から始まって誘拐に違いないだとか、山に埋められてるのかもだとか海に沈んでたらどうしようとか言い出して」 「大げさにもほどがあるでしょ」 「俺も最初はそう思ったんだけど聞いているうちに不安になってきて、緊急事態だから電話してもいいかなってスマホを手にとったら犯人が出たらどうするの!って止められて」 「はんにん」  弟の話に呆然として聞こえてきた言葉を繰り返す。
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