小説家さんと実家

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「もう警察に届けたほうがいいのかしらって言うからとりあえず俺が見に行くからって母さんを止めて家を出てきたんだけど、何もなさそうでよかった」 「次からは電話してから来て」  実家からここまで近いわけじゃないし、弟だって暇なわけじゃないんだから。と息を吐くと理央は台所のほうに視線を向ける。 「最近、料理してないの?」 「いや、その、忙しくてさ」  冷蔵庫の中を見たならそれが分かるのは当たり前なのだけれど、何で台所を見ただけで最近買ってきた弁当で済ませていることが分かったんだろう?と疑問に思うが、自分も彼と同じ方向に視線を向けるとコンロ横の調理代の上にもらった割り箸が転がったままになっていた。 「でも、普段はちゃんと自炊してるから」  理央が来るって分かってたら片付けておいたんだけどなぁ。と思いながら母に余計なことを報告されないよう言葉を付け足すと彼はそうだ。と手を叩く。 「それならさ、この機会に帰ってきなよ。家なら黙ってても食事出てくるし仕事に専念できるでしょ?」 「そりゃあ、そうかもしれないけど。帰ったって家に上げてもらえないでしょ」 「そこは大丈夫。じいちゃんもばあちゃんも死ぬ前に兄さんに会いたいって言ってたからさ、さすがの父さんだってそれには反対できないし兄さんだって気になってたでしょ?」 「それは、そうだけど」 「そうだけど、じゃないよ。ふたりともボケて訳わかんなくなっちゃってから帰ってきたって遅いんだからね」 「今は元気なんだよね?」 「入院することだって増えたし、介護のことだって考えないとってタイミングになってきたし、ふたりを見てると年をとるってこういうことなんだなぁって思うけど」  父さんがケンカの勢いで言ったこととはいえ父さんが生きているうちは実家に帰るつもりは無かったのだけれど、祖父母のことを出されると本当にそれでいいんだろうか。と気持ちが揺らいでしまう。
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