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吾妻次長はデスクで腰をすらりと伸ばして、パソコンを打っている。このご時世、そうやって資料作成する人は少ないけど、彼女は指を動かしてタイピングするほうが頭の中を整理しやすいらしい。飲みかけのコーヒーが入ったマグカップの横には革製のレトロな筆箱が置いてあった。チャックの影から頭をのぞかせた銀色のボールペンが、鏡のようにLED灯を反射している。
次長のデスクの前に立ったわたしは、思考視野に表示された通り
「次の役員会の件で相談したいことがあるのですが、今お時間いただけますか」
と彼女に声をかけた。彼女はわたしを見ようともせず「うん」と気の抜けたような返事をする。やがて数秒後にはきりをつけたようで、パソコンに向けていた集中力をわたしに振りわけてくれる。
「こちらが協議事項案です」
わたしは話しながら、一枚の紙を差し出した。この紙の差し出し方は、表に親指を、裏に人差し指を添えてまっすぐに折れないようにすることがもっとも重要だ。
一束二〇〇枚、約六〇〇円。商品名「量産型A4磁気式・念紙(白黒プリント用)」。
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