念紙 

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 見た目はただの白い紙。だが、よく見るとA4サイズの短辺に沿って中央あたりに、小さな四角マークが書かれている。差し出すわたしの側と、差し出される次長側にそれぞれひとつずつ。わたしは親指の腹をそのマークに乗せた。  その機能を、わたしは今でも不思議に思う。私が指を乗せた黒四角を起点に、黒い線が紙を縦横無尽に駆け巡るのだ! そうして紙面で激しい踊りを繰り広げた線は、やがてひとところに集まり「社内文書」を形成する。頭の中で散らかっている思考をアウトライン化、校閲、再構成、そして記憶する思考視野に、無料の専用「念紙プリント」アプリをインストールしておくことで頭の中をその場ですぐに印刷することが可能だ。 「まずは名簿を作成するかどうかということなのですが、会長から提案がございまして……」  思わず声がうわずってしまうのを抑えつつ、舌が絡まりそうになるのを必死で耐えて言葉を紡ぐ。念紙に印刷されたフォントは、昨日見つけて一目惚れした「桜明夕」。名前も見た目もおしゃれで、飾り気はないが女性らしく洗練された感じが好印象だった。明朝体に似てビジネスでも使えそうに思われたので、すぐにインストールして印刷フォントに設定してしまった。
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