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曾祖母
母が昔、話してくれた。
母の祖母――私から見て曾祖母の家で起きた出来事だ。
当時母は小学生。
夏休みを利用して、父方の祖母である曾祖母の家に泊まりに来ていた。
都会育ちの母にとって絵に描いたような田舎の風景はどれも珍しく、曾祖母の家に行くのを毎年楽しみにしていたらしい。
曾祖母も勿論、母や祖父母が来ることを大変喜んでおり、しわくちゃの顔を綻ばせ「なっちゃん、よく来たなぁ」と東北訛りで迎えてくれた。
曾祖母は一人暮らし。離れて暮らす息子夫婦と孫娘をそれはそれはもてなした。
天ぷらやお赤飯、蕎麦、煮しめの他に大きなスイカ、おどろくほど甘いとうもろこし、瑞々しいトマト……果物や野菜はどれも都会じゃなかなかお目にかかれないものばかり。
母は日に焼けて手足も顔も真っ黒になるまで外で走り回り、時々曾祖母の畑の手伝いもした。
母は優しい曾祖母のことが大好きだった。
自然に囲まれた曾祖母の家も大好きだった。
ただ、一つだけ恐れていたものがあったのだという。
それはトイレだ。
田舎の古い民家。昼間は陽の光が降り注ぎ、青々とした山や田畑を照らし出す。
しかし一度日が落ちれば、辺りは真っ暗。
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