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私は靴をゆっくり脱ぎ玄関を上がり、リビングに向かうと扉が閉まっていた。リビングに続く床は何かを引きずった跡が続いていた。まるで何かをリビングに持って行ったかのように……
跡には、赤い何かが床に付着していた。真っ赤で綺麗な何かだった。私は、しゃがみこみその赤い何かを恐る恐る手につけると液体のようなものだった。
私の頭の中に一つの言葉が出てきた。
――血――
私の身体は反射的に後ろに下がり尻もちをつく状態になった。両手にはヌメヌメとした感触があって、手を前にすると真っ赤な血が手についていた。
嘔吐しそうになった。嫌、嫌、そんなことない絶対にない。大丈夫だ。と言い聞かせた。
私は手を床につけてゆっくり立ちあがりドアノブに手をかけた。唾を飲み込みドアを開けた。
そこには暖かい家庭が……なかった。
床には至る所に血飛沫が飛んでいた。それは壁、天井にも飛びかかっていて思い出のリビングは、残酷な空間に変わっていた。
そして私の目の前には人の腕があった。薬指には、指輪がつけられていた。この指輪には、見覚えがある。
お母さんがよく話してくれた結婚指輪だ。シルバーのシンプルなデザインだったが私には、その指輪が輝いて見えていた。
しかし今は、血に濡れて変わり果てた姿になっていた。
私は嘔吐した。身体の中に溜っていた食べ物が一気に吐き出された。
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