起因 ~cause~

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起因 ~cause~

七月の暮れ。その日は夏休みの初日だった。 天気は快晴。 蝉の声が夏の到来を知らせる。 今年は例年より鳴き始めるのが早い。 世間で騒がれている温暖化のせいだろうか。 今年の夏は暑くなりそうだ。 昂は着慣れぬ黒い礼服に身を包み、自宅リビングを葬儀会場に改装しながらぼんやりとそう思った。 昨日の晩、ひたすら泣いた。 知り合いにでも見られたら恥ずかしくて死んでしまいそうなほどに、鼻水と涙と涎で顔がぐちゃぐちゃになるまで泣いた。 両親が死んだ事が悲しかった。勿論。 しかし、それと同じぐらい初めて味わった完全なる孤独。 それがなにより怖かった。 兄弟も親戚もひとりとしていなかった昂は、これから先の自身の行く末に底知れぬ不安を抱いていた。 施設に送られるのか。 それとも里親が現れて、どこぞの家庭に養子になるのか。 はたまた支援金でも貰いながら自立しなければならないのか。 「これからどうなるんだろう……」 なんの変哲のない、代わり映えのしない日常。 それが時に嫌で、逃げたくなって、教室から外を眺めてはよく物思いに耽っていた。 今となってはそれも懐かしい。 苦労なんて出来ることならしたくはない。 まだこの歳でひとり残されるイレギュラーな生き方より、ちゃんと両親がいて安心して暮らせる平凡な日常の方が何倍もマシだ。 しかし、今更望んでもそんな日々はもう二度と戻っては来ない。 昂は昨日一日、散々泣き散らかしたあとで、両親の遺影の前で平凡な日常を捨て去る事を決めていた。 「俯いてても仕方ないよね。──── 僕、頑張るよ!父さん、母さん」 二つの遺影を祭壇に並べた後、昂は静かに両手を合わせ両親に自身の決意を表明した。 外では、子供たちのはしゃぎ回る声が響いていた。 今から始まる一ヶ月余りの長い休日に、期待と興奮を抑えきれないといった様子で奇声に近い声をあげて喜んでいた。
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