変異 ~change~

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「昂は、私が『見境のないふしだらな女』だって思ってるでしょ?」 少し憂うような瞳で昂を見下ろす詩穂。口元こそ笑んではいるが、口調はどこか寂しげだった。 「そんなこと思ってないよ……」 「ほんと?」 「うん、」 昂は顔を正中に戻し、詩穂を見上げ申し訳なさそうに、 「仲良くしたいとは思ってる。でも、詩穂ちゃんは強引だから僕はそれに困って、その、どうしたらいいか分からなくなる」 目線を合わせては外し、外しては合わせ、昂は(せわ)しなく瞳を動かしながら詩穂に心境を打ち明ける。 心が少し軽くなった気がした。 たぶん、今まで言えなかった心の内を僅かばかりでも詩穂に伝えることができたからだと思う。それは昂にとっては大きな前進だ。 それを聞いた詩穂は少しだけ目を丸くしたものの、優しく微笑んで、少し間を置いてから優しい声で昂に問いかけた。 「私のこと嫌い?」 「ううん! 嫌いじゃないよ!」 さきほどの挙動とは反対に昂はしっかりと詩穂の目を見て、首を振って力強く否定した。 自分は詩穂を嫌ってはいない。その気持ちは本当である。 少しでも間を置くと自分の気持ちが嘘だと思われてしまうと感じた昂は、躊躇(ためら)うことなく瞬時に返答した。 「よかった」 安心したように詩穂はそう呟くとさらに顔を近づけ、昂の額に自分の額を重ねた。そして頬にそっと両手を添える。 その肌の感触と体温に、昂は鼓動を跳ね上げ頬を紅潮させる。
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