邂逅 ~encounter~

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邂逅 ~encounter~

「ごめんなさいね昂くん。私、あなたに連絡先を伝えてなかったでしょ」 「あ、いえ、大丈夫です。 こうして穂乃果さんと無事連絡を取ることができたので」 今年の夏は例年に比べてその猛威を存分に振るっている。 何やら記録的猛暑であるらしく、八月に入って既に十九人が熱中症で救急搬送されたそうだ。 車内のカーステレオから流れるラジオがそれを伝えていた。 都市部の交差点。信号が赤を示し、目の前の横断歩道を人々が行き交っている。どれも皆、少しでも暑さから逃れようと各々(おのおの)対策を講じていた。 うちわで扇ぐ人。タオルで汗を拭う人。日傘を差す人。清涼飲料水を流し込む人。 それを見下すように、灼熱の太陽は天の果てから人々を(あざけ)り笑う。騒ぎ散らす蝉達はまるで夏の尖兵(せんぺい)のようであった。 昂と穂乃果は赤いスポーツクーペのフロント越しに眼前の往来を眺めていた。 車内の空調は快適な設定温度で、天空の覇者の閃光も夏の尖兵の騒音もその中までは効果を発揮できず、二人にとっては対岸の火事といった様子であった。
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