序章 ~prologue~

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序章 ~prologue~

季節は初夏。七月の暮れ。 蝉の声が響き渡る一学期最後の日。 どこにでもあるようなありふれた校舎に、細身の身体で女子と見紛うような端正な顔立ちをした青年が、教室の一番後ろの窓際の席で、そこから見える緑のフェンスに囲まれたグラウンドを、頬杖を付きながら茫然と眺めていた。 彼の名は一之瀬(いちのせ) (こう) 身の丈はちいさく、他の同級生と比較してもおよそ年相応には見えないであろうその青年は、左手を顎に乗せたまま只淡々と流れる代わり映えのしない日常を憂うかの様に外の土色に目を向ける。 何を見るでもなく、焦点が定まったかと思った矢先に次の目標へと切り替わる。只それを繰り返す。 彼は自分を平凡な人間だと思っていた。 ごく普通の家庭に育ち、ごく普通の学校に通い、ごく普通の就職をする。 その先で家庭を持つのか、独身貴族を貫くのか、そこまではプランには入れていなかったが、自分の人生などこんなものだろうと半ば割り切っていた。 家族は父と母の三人暮らし。兄弟はいない。 欲しいと思ったことがないわけではないが、子供の頃はその代わりとなる親戚にも似た存在がいたため、そこまで一人っ子を恨めしいと思ったことはなかった。 両親は共に学者だった。 父は民俗学の権威で、母はそんな父の助手をしていた。 二人は各地の文化や風俗、宗教や信仰などの研究をしていて、子供の頃から昂はそういったものに触れてきた。 昂自身は両親の研究に一切関心はなかったが、両親の仕事の関係で、幼少の頃は夏休みになると毎年のようにとある田舎の西洋屋敷に出向いていた。 幼少期の夏休み。 それが幼い頃の昂にとっては一番の楽しみだった。
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