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くほどに生きる気力を何もかも失ってしまった。それまで沙羅のことはいつも自分の後ろに引っ付いてきて鬱陶しいと思うくらいの存在であった。だがそれを失ったとき、初めて無くしてしまったものの大きさに気づき、深い喪失感に身を震わせた。そしてその時、ぼくの心の奥に鬼が生まれたのだ。心の中の鬼はぼくをひたすら糾弾した。なぜあの時、沙羅を行かせたのか!なぜもっと早く沙羅を探さなかったのか!なぜ!なぜ!なぜ!ぼくはその鬼の叫びを聞くたび、針を刺されるような痛みを覚えた。その痛みに抵抗することもできず、心が壊れかけたころ、ついにその鬼は意思を持ち始め、遂には姿を現したのだった。
「和哉、儂が見えるか?見えたら返事せい。」
ある時、声を聞いた。少女だ。年端のいかない、まだ沙羅と同じくらいの年に見える。頭に一対の角を生やし、髪は長く足の近くまである。優雅な浴衣?と言えば良いのだろうか。フリルなどの装飾が施され、スカートの丈は極端に短く、和洋折衷の風変わりな衣を身に纏っている。しかしその奇天烈な格好とは裏腹に、その身からは、まさに大昔に語られていたような本物の鬼であるかのような冷徹な雰囲気を醸していた。
「な、なんだお前は!」
暗闇から突然現れた少女に驚き、ぼくはかすれたような声を出した。
「そう怯えんでよい。儂はお前で、お前は儂なのじゃからな。」
「いきなり表れて意味深なことをいうな!ぼくはお前のことなど知らない!」
ぼくは叫ぶようにそう言った。ぼくは一目で、どこか冷たい気を纏うこの少女の事は永遠に好きにはなれそうにないとそう悟ったのだ。生理的とかそんなレヴェルの話ではない。同じ世界に存在することを許容することすらかなわない、これはそういうものだ。
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