第0話 序

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 お腹の中で十月十日温め続けた我が子は、もういないのだと思い知らされる。  いや、きっとこの産院のどこかにはいるのだろうが、手放すしかないのだ。  夜に生まれることのないよう、ずっと祈ってきた。  「安産守り」とは別に、「昼守り」だって、名のある神社まで時間をかけて受けに行ったのだ。上の子は二人とも無事昼に生まれてきてくれたというのに。いやむしろ確率的には、そろそろ仕方がないと言われるだろう。三人連続で昼に生まれるなど、よほど運が良くなければ叶わない。上二人だけでも、昼に生まれてくれて幸運だと思わねば罰が当たる。そんなことわかっている。でもそれでも、母として割り切ることなどどうしてできよう。  あの子が一体、どんな人生を歩むのか、自分の目で見届けることは叶わない。  ただ、願うだけ。一縷の望み、希望を。なんとか、生きて――。  昼生まれと夜生まれ。生まれた時に日の光を浴びたかどうかで、その後の人生は決まる。  産まれた瞬間に日の光を浴びたものは、太陽に対してなんの影響も受けないが、浴びなかった者は、一生において直射日光が猛毒となる。したがって、夜にしか生きられない。     
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