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「生きる」とは、どういうことか。
大学三年の十一月。考える時間は残っていないに等しい。分からなくたって決断をしなくちゃいけないときだってことも分かっている。
でも、その決断が俺の人生を左右するものなら、きちんと納得して決断したい――というのは建前で、本当はただ分からないだけ。
自分が何をしたいのか、何になりたいのか、どう生きたいのか。
そのすべてが分からない。
だから俺はずっと戸惑っている。
学生でいる間はそれでもよかったし、ある程度限られた選択肢から選べばよかった。
もうすぐその時間も終わる。選ばなくちゃいけない。何かを。
果てしなく大きなキャンバスに「自由に描け」と言われているような気分。
最初の一筆が、線が、点が、俺の全てを決めてしまう。そう思うと恐ろしかった。
そのキャンバスの白さが――無限の可能性ってやつが、俺には怖くて仕方なかった。
「ノワール」にいるのは変なやつばっかりだった。
煙草を吸って新聞を読んでる爺さんと、ぼんやり外を眺めているおばさん、若い女も一人いて、いつも同じ本を読んでいる。
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