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園部朱里が出て行くのを見送ってから、大沼医師は溜息を一つ吐いた。
「彼女、大変でしょうね」
同じ部屋にいた看護師が彼の気分を察して声をかけてきた。
「そうだなぁ。一見問題なさそうなのがな……」
「事故のショックなんでしょうね」
「そうなんだろうなぁ」
二人は顔を見合わせ、やるせない溜息を吐いた。
車には三人乗っていた。園部朱里と婚約者の野辺祐樹。それから野辺の友人、島本孝明。
後部座席に乗っていた園部朱里は、どうにか自力で這い出した。そして、二日間に渡って森を彷徨った後にどうにか道路沿いに出て助けを呼んだ。運転していたのは島本孝明。彼は一命をとりとめたが、助け出された後は茉利子という、いもしない人物に話しかけるようになっていた。
助手席に乗っていた野辺祐樹は即死。その事実に耐えられなかったのでは、とも見られた。
そして、無事だと見られた園部朱里は、その後島本孝明を婚約者だと思い込んでいると発覚した。
彼女と島本孝明の二人しか車に乗っていなかったと証言したのだ。
嘘発見器にもかけられたが、彼女に嘘は無かった。
事故の原因とされる大型トラックは、今もまだ発見されていない。
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