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改めて事件を思い返し、看護師は顔をしかめた。
「ややこしいですね」
「さらにややこしい話もある」
そう言った大沼医師は苦笑いを浮かべていた。
「というと?」
「トラックが見つからないらしい。その時間、山道を走っていたトラックなんていないとどこの運送会社も言うらしい」
「でも、何かしらトラックの痕跡があるのでは?」
「当てられたんじゃなくて、避けようとしてハンドル操作を誤ったと言うんだな」
「迷宮入りですか?」
「このままではそうなんじゃないのかな。そもそもトラックが本当にいたかどうか。それも含めてね」
そう言って彼は小さく肩をすくめた。
看護師はマジックミラーの向こう側に悲し気な目を向けた。
鏡の向こうでは、まだ島本孝明が「茉利子」に向けて話し続けている。
「一体、何があったんでしょうねぇ」
「さあねえ。ただ、園部朱里と島本孝明は浮気関係にあったらしい、と馴染みの刑事がこっそり教えてくれたよ」
「ええ? てことは……」
「そうだ。婚約者と浮気相手と当事者の女性が同じ車の中にいた。そして、そんな三人が夜の山道にドライブ。ただ事ではなさそうだろう?」
「こわぁい……」
看護師は口元に手をやり、身を震わせた。
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