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「ここで団地は終わりです。ここから先、通路はあるんですけれど何処へ通じるのかはわかりません」
そう行って僕は扉を開ける。
向こう側に同じような通路が続いているのが見えた。
「ありがとう。そこでここから出る前に、質問ひとついい?」
「何ですか」
僕はアキコ姉の方を見る。
アキコ姉は僕の真っ正面に立って僕の目を見た。
「この非常扉は片方しかドアノブが無いわ。だからこっちからは開けられても向こうからは開けることが出来ない。つまり出たらもう帰れない。
ここから先はどうなっているかわからない。生きていける環境に辿り着けないかもしれないの。
でも今だったらまだ戻れるよ。引き返せばいつもの生活に戻れるわ。ミナト君は私と違って来年以降も生きられるだろうし。
本当にここを出ていいの。もう一度ちゃんと考えて」
黒い大きい瞳が僕に問いかける。
アキコ姉が言いたい事はわかる。
ここを出れば今まで守られていた食事とか安全な寝場所とか全てが無くなるのだ。
でも僕はもう自分がどうしたいかわかっている。
アキコ姉を連れ出してここまで来たのは正直なところ勢いが半分以上。
でもここまで来てアキコ姉と話した今、自分がどうしたいのかはっきりわかった。
「僕はアキコ姉と一緒にいたいんです。アキコ姉にとって迷惑でも」
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