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東京や大阪等の大都市で雪が10センチ積もるだけでクルマでスリップするわ、電車は止まるわなどの都市機能が止まるニュースと大騒ぎになる。このニュースは冬の度に全国で放送される。
このニュースを見る度に雪国の人間はどう思うのだろうか。都会の方が寒いと言うのは同意が得られるかも知れないが、雪に関しては「あんな細雪(ささめゆき)ぐらいで何を言うか都会人」と馬鹿にされるだろう。
こんな雪国の人間を祖母に持った少年は10センチの積雪で滑って転んだと泣き言を言うが「こんな細雪ぐらいで甘えるな」と一蹴されてしまう。少年の祖母は正月で息子夫婦の顔を見るために都会にある少年の家に遊びに来たのだった。
「お婆ちゃんが子供の頃はこんな雪ぐらい無いみたいなもんだったよ」
また始まった、雪国自慢。少年は祖母の雪国の話にうんざりしていた。
「お婆ちゃんが小さい頃はね、二階の窓まで雪が積もっていたんだよ」
少年は祖母を馬鹿にしていた。いくらなんでも雪が二階の窓まで降り積もることなどありえない。祖母が小さい頃の話なので2メーターか3メーターぐらいの積雪が二階の窓まで積もっているように見えただけだろう。身長の低い子供の頃にはものが大きく見えるのはよくあることだ。
「学校に行く時は電線を跨いで気をつけながら行っていたんだよ。下手に電線を踏むと感電して死んじゃうからねぇ」
それこそありえない。電線を踏んだぐらいで感電するなら今頃は雀の焼き鳥屋が大繁盛しているはずだ。いよいよ祖母も養老院行きが近づいてきたようだ。少年の中には電線を跨いで歩くと言う事が想像すら出来なかった。
翌日になり見ただけでわかるぐらいに冷たく輝く雪がちらほらと舞い、空気も冷える中、祖母は帰ることになった。
「今日も寒いねぇ。まるであたしが子供の頃みたいだよ。明日は雪で町が埋まるよ~」
息子夫婦も少年も苦笑いをした。特にこう言った雪国の話を子供の頃から聞いていた息子は笑い飛ばした。
「もう、お母さん。雪が二階の窓まで積もる訳ないじゃないですか」と、息子が言う。
祖母は訝しげな顔をしながら息子に吐き捨てた。
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