3人が本棚に入れています
本棚に追加
少年は外に出ることが出来ないので休校の連絡を入れようとした時、二階から何かを掘るような音が聞こえて来る事に気がついた。その音の元に行くと、父親がスコップでひたすらに窓の白壁を掘っている姿だった。
「おう、昔母さんからこんな時どうすればいいか聞いたんだよ」
少年の中に嫌な予感が過った。祖母はこんな時に学校に行っていたと言う。その為にはどうすればいいか。
「お父さん頑張ってここにトンネルみたいに穴掘るから頑張って外に出なさい」
嫌な予感的中である。何もこんな時に昔の事を思い出さなくてもいいのに。
「お父さんだって会社休みじゃないの?」
「会社って言うのはこんな時でもあるもんだよ」と、言いながら父親は傘を少年に差し出した。
社畜と言うやつだろうか。どうやら歩いて一時間圏内の人間を集めてでも会社を稼働させないと行けないらしい。雪に埋もれて稼働不可な会社があろうと、雪に埋もれていない取引先からすれば知ったことではない。白い雪の中に燦然と輝くブラック企業とはよく言ったものである。
少年は父が掘ったトンネルを潜り土竜が地上に出るように雪の上に出た。そこから見る風景は一面の銀世界。銀世界の中に点在する色とりどりの屋根。屋根の上に立つなんてこの人生でもそうそう出来る経験ではない。流石に同じ手段を使って外に出るやつなんでそうそうはいないはず。
「おはー」
少年の集団登校の班全員が二階の窓からトンネルを掘る手段によって家からの脱出に成功していたのだった。低学年はテンション高そうに雪だるまを作って遊んでいる、家の前では無く屋根の上に雪だるまが立っていると言うありえない風景に関してはこの際目をつぶろう。高学年になるほどにテンションは下がり体を震わせていた。雪で喜ぶような童心はもう無いのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!