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「ここは神殿都市の、召喚の間。私たちに力を貸してほしくて、あなたをお呼びしました」
召喚の?
オウム返しにしてみたものの、まったく状況が飲み込めない。
思ったより大きな声が出てしまい、わんと響いた自分の声が、気恥ずかしい。
「あなたは生きていますし、お怪我もありません」
しかし、と続けようとした声を遮って、優理は女性に駆けより、両手を取った。
「助けてくださってありがとうございます! すごい、私、生きてるんだ!」
きょとんとする女性をよそに、興奮した様子で、一気にまくしたてる。
「もうちょっとで、電車に轢かれちゃうところだったんです。なんだかわからないけど、私にできることなら、お手伝いさせてください」
「ありがとう、ございます。あの、よろしいんですか?」
「いいんですいいんです。えっと、ここってどこなんですか? 病院ではないみたいだし、駅の中って感じでもないですよね。お姉さんは、あーえっと……私、千堂優理っていいます」
矢継ぎ早に言葉を並べる優理に、状況を飲み込めずにいる優理よりも、女性の方が面食らっていた。
ポジティブというのか、無鉄砲というのか。それが、優理の最大の長所であり、最大の短所でもある。
「落ち着いて聞いてください。ここは、優理さんが住んでいたのとは別の世界。異世界ということになります」
「はあ」
「あなたは生きていらっしゃいますし、お怪我もありません。しかし」
先の台詞を言い直した上で、今度はしっかりと言葉を区切って、女性が先を続ける。
「すぐに元の世界へお帰りいただける、というわけにはいかないのです。本当にごめんなさい」
優理は、やはり状況が飲み込めず、もう一度「はあ、そうなんですか」と返事をしていた。
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