アルカディアのくずかご

序章：千堂優理・一

「驚かせてしまってごめんなさい。私の言葉がわかりますか？」

　千堂優理(せんどうゆうり)はこくりと頷き、おそるおそる問い返す。

「すみません。やっぱり私、死んじゃいました？」

　優理がいるのは、ひんやりとした空気が満ちた、大広間だった。
　流線形の模様が入った荘厳な石柱が、優理を囲むように、つまりは広間の中心で円を作るようにして、配置されている。
　天井は高く、真上に位置する天窓から、ちょうど優理を照らすように、柔らかな光が差し込む。
　目の前には、ゆったりとした衣装を着て、申し訳なさそうに笑みを湛えた女性が立っていた。
　優理の口から、物騒な質問が飛び出したのは、この場の神秘的な雰囲気と、優理自身が直面していた、ここにやってくる直前の状況によるものだった。
　優理はここで目を覚ます直前、まさしく死ぬところだったのだ。
　大学のサークルから帰る途中、駅のホームでの出来事だ。
　よろけたお年寄りが、線路に落ちるのを見かけ、非常ボタンを押してくれるよう、後ろにいた誰かに叫び、線路に飛び降りた。気を失っていたお年寄りを、他の人の助けも借り、どうにかホームに引き上げたところで、優理は絶句する。
　ざわついたホーム上で、誰かに頼んだはずの非常ボタンは押されておらず、何も知らない列車が、勢いそのままに飛び込んできたのだ。眩しい光に目を閉じて、警笛と、ブレーキ音と、誰かの悲鳴を遠くに聞きながら、意識を失った。
　そうして、気が付いてみればこの大広間で、その時の服装そのままで仰向けになり、天井を見上げていた。