そこにある生命

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わたしは恐る恐る聞いた。 「赤ちゃんの父親は誰なの?」 「…判んない。」 エミリはしぼりだしたような声でつぶやくように言った。 「行こう!」 ここじゃヤバい気がして、エミリを自分の家に連れて行くことにした。 無言で自転車をこいだが、なんとなく速度を緩めているわたしがいた。わたしなりにエミリのカラダをいたわったのだ。 家に到着するとわたしの部屋に直行した。 小さなちゃぶ台のようなテーブルを挟んで座った。 エミリが自分のことを語り出した。 エミリの家はかなり複雑だった。 エミリの母親はフィリピン人で、十代の頃から日本のフィリピンパブで働き、今の父親が三人目。いや、エミリは本当のお父さんを知らないというから、実父も入れれば四人目の父親だという。 これまでエミリに家庭の話など聞いたことがなかったわたしは、ただただ驚いた。 「あたしの初体験って何歳だと思う?」 分からないというように首を横に振った。 「小五の時だよ。まだ生理にもなってない子どものあたしに、そのときの父親が手を出したの。」 絶句した。あまりの衝撃で何も返せなかった。 『そのときの』ってことは今のお父さんじゃないってことだ。今のお父さんは大丈夫なのか。 「オトコはみんなやりたいだけ。優しい言葉をかけてきたり、親切な振りしてさ、結局はやりたいだけなのよ。でもさ、この人は大丈夫なんじゃないか、って出会う度に信じたくなっちゃうんだよね。」 結局のところ、出合い系や援助交際で複数の人と関係を持っていたので、お腹の赤ちゃんの父親が誰なのか判らないのだ。 「もしかして産むつもりなの?」 「なわけないじゃん。」 「堕ろすんだね。」 「でもお金がないんだよね。」 「バイト代は?」 「全部親に取られてる。フィリピンに仕送りしてるし、生活費とか学費の足しにされてる。」 だから援交でお小遣い稼ぎしていたのだと言う。
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