ホワイトノイズ

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「スノーノイズっていうんだってな」 「何が?」 「テレビの砂嵐の音だよ」  みかんいるか、と言われ、いるー、と腑抜けた声を出す。  スノーノイズ。口に出してみて、また「地アナ」のボタンをプッシュする。白黒の線が自由気ままにばたついていて目がちかちかする。音は出ない。アナログ放送の終了と共に音も消えたのだろうか。単にこれが元々音を出さないタイプの機種だったのか。今となっては検証不可能だ。世界には案外、二度と実証できないことが満ちている。  そう言われば、砂嵐の傍若無人な振る舞いは、どこか吹雪じみている。吹雪の朝に感じる絶望感と、虚無感と、目のちらつき。 「あれ、音はしないのか」  みかんのかごを手に、父が戻ってきた。私は小ぶりで色艶の良い物を手に取る。 「まったく、デジタルっていうやつは、音まで奪うのか」  昔のテレビにだって、デジタルな技術はいっぱい使われていたと思うのだけれど。  チャンネルを元に戻して、オレンジ色の一房を口に放り込みながら、南国の色鮮やかな住宅街を眺める。家の壁の赤色やピンク色に呼応するように、柔らかい柑橘の香りが鼻の奥で膨らんでいる。
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