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男の子は変わらず走り回っているらしく、時折甲高い奇声が聞こえた。この時の時間は覚えていないが、子供が出歩いて良い時間ではないだろう。
女性の後を歩いていると、右側に古びたアパートが見えた。二階の廊下に、柵越しに男性が見えた。視線を感じて見上げると、前に歩く女性を睨んでいるようだ。
「おい」
男性の声だ。
「うるっせえーよ!! ガキ黙らせろ! おい!」
怒号だった。男性の声の方がうるさい気もする。いまにも降りてきそうな勢いに、巻き込まれたくなくて目をそらし、前を見た。すぐ前を歩いていたはずの女性が消えていた。後ろから、子供の叫び声は相変わらず続いている。
「うるせーって言ってんだろ!! 無視してんじゃねーよ!!」
男性の声がすぐ後ろからして、驚いて振り向くと、目が血走ったチンピラ風の男のが立っていた。私に話しかけているつもりらしい。
いや、あの、私はあの子の親ではー。
「はぁぁ!? 何言ってんだよ!! てめえで産んだガキだろうが!! どうせオレの子どもでもねーんだろ!!」
「え?」
ふと、手を見ると肌の色が色黒かった。
あの女性になっているのだと思った。
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