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そのことが持ち物に対する意識を薄れさせたのだろうか、家からかなり離れてから初めて、彼はスマートフォンを部屋に置いてきたことに気づく。
(あっ…くそ)
どこかで時間をつぶそうにも、スマートフォンがなければ難しい。考えなしに出てきてしまったので、財布も持っていなかった。
家に戻ろうかと思ったが、今はトメに会いたくなかった。仕方がないので、裕介はそのまま公園まで歩いていく。
公園に到着すると、彼はブランコに腰を下ろした。左右の鎖が音を立て、それが公園内の空気をかすかに震わせる。
と、彼の耳に誰かの声が飛び込んできた。
「ゆうちゃんじゃないかい?」
「え」
驚いて振り返ると、そこには老婆が立っている。
彼女を見た裕介は思わず立ち上がり、その名前を呼んだ。
「ツルさん…!」
「珍しいねえ、お散歩かい?」
「あ、いえ…そういうわけじゃ」
「ふむ…? そうかい」
ツルは何かに気づいたようだったが、そのことに関して言及しなかった。
ゆったりした足取りで裕介に近づくと、引いていたショッピングカートから飴をひとつ取り出し、彼に差し出してくる。
「よかったら食べるかい?」
「え? あ…」
裕介は、反射的に手を出してしまっていた。
ツルは彼に会うと、いつもこうして飴をくれた。
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