氷の煙

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 昼前に起き出してきた裕介は、玄関で何やら話し声を聞いた。 「はーい、ありがとうねえ」 「あざっしたー」 (…宅配か? ばあちゃん、何か買ったのかな)  歯磨きを終えた後、裕介はそのことについて祖母のトメに尋ねた。すると彼女は、どこか誇らしげな顔で彼に小さな袋を差し出してくる。  それを受け取った裕介は、袋に大きく『菜皇』と書かれているのに気づいた。 「え…!」  寝る前に少しだけ目にした通販番組の商品が、今自分の手元にある。そのことが、彼に驚きの声を出させていた。  そんな孫に、トメは得意げな口調で言う。 「あたしを含めて、この家の連中はみんな野菜嫌いだからねェ…ちょっと奮発してみたんだよ」 「ばあちゃん、これ買ったの?」 「ああ。もともとこういうのには頼らないクチだったんだが、ツルさんにオススメされたのもあってね」 「ツルさんが?」 「それよりごはん食べるんだろ? 用意するからさっさと座りな」 「う、うん…」  濁った声を返しつつ、裕介は小袋を見つめる。『菜皇』の文字は毛筆のようなフォントで書かれており、堂々とした力強さを彼に感じさせた。  昼食の最後に、裕介は『菜皇』を飲まされた。  それは緑色の粉末であり、水かぬるま湯に溶かして飲むものだった。 (そんなに…マズくない)     
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