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「ん、いいよいいよ、気にしないで。ほら座りなよ。鈴子もまず何か頼んだら?甘いもの食べれば落ち着くから」
「うん……」
その鈴子が、だ。今は別人のように真っ青な顔をして、口数少なくなっている。椅子に座るその動作だけでも覚束ないというか、酷く頼りないものに見える。もしかしたら、ここ最近はろくにご飯も食べてないのではないだろうか。――なんせ、この三日間、彼女は部活はおろか学校も休んでしまっているのだ。
『ごめん……ごめん奈都。どうしても、相談したいことがあるの…ひとりで、耐えられそうになくて……っ』
昨日、急に電話でそう言ってきた鈴子。一体何があったと言うのだろう。いつもの明るく元気な鈴子と、目の前にいる青ざめて痩せた鈴子がまるで繋がらない。それこそ、オバケにでも乗っ取られてしまったかのようだ。
「相談したいことって、なに?顔色、めっちゃヤバイことになってるけど」
メニューを渡したものの、明らかに目が泳いでいる鈴子を見かねて声をかける。さっさと本題に入った方が良さそうだ、と判断したためだ。彼女は少しばかり視線をさ迷わせて――やがて、意を決したように告げた。
「奈都は、さ」
「うん」
「おまじないとかって、あんまり、する方じゃない……よね?そういうの信じてなさそうな気がするんだけど……」
おまじない?私が眉を潜めて問い返すと、こくり、と頷く鈴子。
「もう、五年も前なんだけど。何でも叶うおまじないが書いてあるんだって……そんなサイトがあるって、Twitterで拡散されてきたことがあって、さ。そこ、覗いてみたことがあるの。その時まだ中一でさ。クラリネット始めたばっかで全然上手に吹けなくて、すっごく悩んでたんだよね。おまじないでもなんでもいいから縋りたい気分だったの。Twitter上でも、すっごくよく効くおまじないだって評判だったしさ……」
昔から鈴子はそういうところがある。流行や、人の言葉を鵜呑みにしてしまいがちなのだ。Twitterで流れてくる情報などもついつい振り回されてしまい、間違った知識を覚えて右往左往しているのをよく見かけるのである。ややこしいフェイクニュースが多いのもあるが、ようはそれだけ彼女が純粋ということでもあるだろう。
しかし、と私は思う。
そんなおまじないなんてものに頼らなくても、鈴子はクラリネットが天才的に上手いのに、と。
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