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「鈴子でもそんな風に悩むことがあったんだねえ。先生も絶賛するほどのクラの天才が」
「天才なんかじゃないよ。私がクラリネットが上手くなったのは、完全におまじないの結果であって私の力じゃないから……」
「またまた」
「本当だよ奈都!私は……おまじないをやってから急にクラリネットが上手くなったんだから!」
俄に信じがたい話だが、少なくとも鈴子はそれを真実だと信じているらしい。ここで否定して、ご機嫌を損ねるのは得策ではない。とりあえず、それで?と優しく続きを促してみることにする。――まあ、話が逸れた結果、先にネタバレを聞いてしまった気はするのだが。
「そのサイトには、四つの呪文が書かれていてね。呪文を唱えながら供物を用意してお願い事を呟くと、願ったことが確実に現実になるっていうの。Twitterでもすっごく噂になってた。そのおまじないをやると、お願いが数日で叶ったって。……やり方は割愛するね。教えない方がいいと思うし……そもそも私もやり方をきちっと覚えてる訳じゃないから。ただ、私が書いてあった呪文のうち一つを使っておまじないをして……お願い事を叶えたってことが重要なの。私はおまじないを知って、それから数日で急に先輩たちの誰よりも上手にクラリネットが吹けるようになったのよ」
そういえば、と私は思い出す。初心者だったはずの鈴子が、数日で急に上達してきたことがあったな、と。連休の前であったし、てっきり猛特訓してきた成果が出たのかと呑気に思っていたのだが――。
「噂は本当だった!このおまじないはガチで効くよ!って私もびっくりして大喜びして……他の人と同じようにリツイートして、拡散したんだよね。そのおまじないと、サイトの話。えっと奈都、私のアカウントフォローしてたよね、覚えてない?」
「あー……ごめん、よく覚えてないや。殆どROM専だったし、面白そうな人や企業は片っ端からフォローしまくってた時期だから、きっとすぐ流れちゃったんだと……」
「……そっか」
本当だ。自分は全く、それらしい鈴子のツイートに覚えがない。
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