おまじない。

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「まあ、いいや。………それでね、奈都」  そして、彼女は固い表情で。 「……ちょっと考えれば、おかしかったんだよね。何の対価もなしにさ、好きなお願いが何でも叶うって……やっぱりちょっと、おかしいよね」 「え?う、うん……まあ」 「対価。やっぱり、あったの。おまじないの呪文、全部は覚えてないけど。確かこんな感じだったはず。……平仮名で全部書いてあったから、あの時はすぐに気がつかなかった」 “おねがいします おおかげさま  あなたのための くもつはここに  おねがいします おおかげさま  あなたのための にえならここに  おねがいします おねがいします  わたしのこのてのかわりにどうか  おねがいします おねがいします  とどけてください わたしのこえを” 「……それって」  唄うように紡がれた詩に、私は目を見開く。なんとなくこっくりさんに似てると思ったのは――気のせいではあるまい。 「おまじないというより……何かのヤバイ儀式っぽくない?」 「おまじないは、儀式だよ。だって“まじない”と書いて“のろい”って読むんだから」  カタカタ、と。メニューを握ったままの、鈴子の手が震えているのが見えた。 「お願いは叶ったの。叶ったから……私は、私たちはその代金を支払わないといけない。私達、バカだから全然それに気づいてなかった。みんな気付いてなかったの。お願いが叶うのは数日後でも……対価を取られるのは、五年後だったから」  五年後。まさか、と私は思う。  鈴子は一番最初に言わなかっただろうか。――これは、五年前の話であると。 「最近のニュースは……事件を、全部拾えてないの。もっと増える……これから増えるよ。噂はどこまでも広がって、なにも知らないたくさんの人が手を出してしまったから。……五年後に、儀式で“賭けた”ものを奪われるとも知らないで」  彼女の眼に、じわり、と涙が浮かんだ。そんな馬鹿な、と思う。最近頻発している不幸な事故の数々は――何者かの作ったまじないと、その対価のせいだとでも言うのだろうか。 「どうしよう、どうしよう奈都。私やっと、やっとこんなにクラリネット上手くなったのに。ソロパートもいっぱい任せてもらえるようになったのに。……そのぜんぶ、ダメになったらどうすればいいの?どうすれば……」
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