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起きたときから、脳内でずっと同じ問いが堂々巡りをしていた。
昨日の夜の出来事は、現実なのか夢なのか。
いや、夢かもと思っているのならここまで悩むわけはない。現実だという実感があるからこそ、新種のウイルスに免疫が追い付かない抗体のように突然に襲ってきた違和感を咀嚼できないまま苛まれているのだ。
いつもと同じ時間のアラームで朝起き、そのまま講義に出て、暇があれば比奈と他愛もない話をする。勿論、スマホは話しかけてきたりしない。
いつも通りの生活が、返って私を不安にさせた。
そんな気持ちの私には昼休みの食堂の雑踏が浮ついた心をさらに騒ぎ立ててくるように感じて、昼食さえままならず、いつもより控えめなメニューを注文して事務的に箸を動かしていた。
「あの……、比奈のスマホってさ」
二人掛けの席の向かいに座る比奈がこっちに顔を向け、神妙な語りかけた私に少し不可思議そうな視線を送る。
「喋ったりする?」
一瞬のためらいの後に生まれた私の問いに比奈は頬を緩ませる。
「それってあれでしょ。明日の天気は、とか聞いたら降水率とか気温を音声で返してくれるやつ。最近のスマホには結構ついてると思うんだけどなあ」
正常な人間の返しとしては十分だが、今求めてるのはそんな機能の話じゃなかった。
「いや、そうじゃなくて」
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