3)スマホが喋った!?

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「じゃあどういうこと?」 「世間話、したりとか」 真剣な面持ちで繰出した唐突な話題を冗談だと思ったのか、比奈は口元を手で覆って笑い声をあげる。 「もしかしてあれ? 不思議系キャラに路線変更みたいな?」 彼女の返答に思わず羞恥心がこみ上げてきて、微妙な笑顔で返すほかない。 「いや、違くて。昨日の夜、スマホが話しかけてきてさ。それで」 自分で言い出して、自分で口が止まった。確かに、第三者からしたらスマホと会話ができるなんて話は陳腐な冗談にしか聞こえないだろう。 「まあ、でも」 比奈は悪戯っぽい笑みで私の話を受け流すように相槌を何度か繰り返すと、少しばかり考えるように俯き、真面目な口調に変わって徐に言葉を続けた。 「いずれは人間とスマホがお互いの意思で話せる時代が来るかもね。そうすれば、もっと生活は便利になるだろうけど」 「だろうけど?」 「なんかスマホにも感情があるなら、それはそれで可哀そうかもね。だって、生まれたときからずっと誰かに所有され続けるなんてさ。モノだからこそ、気持ちは持っちゃいけない気がする」 真面目な持論を、照れくさそうに語る比奈は、ずっと隠してた初恋を仲の良い間柄にだけ語る少女の照れ笑いのように純粋無垢だった。ただそのどうしようもなく綺麗で、出来過ぎなくらいの表情が私には作りこまれたものであるような気がしてならなくて、私は少し、ほんの少しだけ瞬きを長くした。
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