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トラブルを早々に乗り越えられたことが緊張感を解いてくれたからか、発表は無事に終わらすことができ、その後の質疑応答も難なく乗り越え、暖かな拍手とともにゼミの時間を終えることができた。
チャイムが鳴ると教授はお疲れ様の一言とともに足早に退室し、生徒たちもそれに準ずる形で教室を後にする。
ゼミの教室に私と比奈だけが残っていることを確認すると、全身からありとあらゆる力が抜けるように椅子に深くもたれる。
「いやぁ、緊張するとすぐに時間って過ぎるね」
安堵の表情を浮かべる私に、さっきの良かったよと比奈は肩を叩いて笑いかける。
「悠那が昼にスマホが喋るのがなんたらって言ってたの、もしかして発表のことだったの?」
「いや、まあなんか、うん。そんな感じ」
曖昧な言葉で誤魔化す。なんで勝手にスマホが喋ったのか自分でも理解なんてできてないのに、ましてや他人に何をしたのかを説明できるわけなかった。
「すごい機能使いこなせてたね。ごめんだけど、そんなに機械に強い人だとは思ってなかった」
謝る必要なんてないよ。実際使いこなしてるわけではないし。
比奈は腕時計を見て、じゃあ次の教室行くねと申し訳なさそうに言うと、お疲れ様と軽く手を振って席を立つ。ひらひらと手を振り返して教室を出る彼女を目で見送った。
私も次の講義があったが、出席する気持ちは消え失せていた。一旦何が起こったのか整理する必要を感じていたからだ。
席に座ったまま鈍くなった思考を再び奮い立たせる。
まずはこの場に誰もいないことを確認したかった。
教室に目を向ける。二十人も入ったら満席になってしまうであろうこの小部屋は、南側に位置しているせいか光が存分に差し込まれ、私が座るテーブルの白をよりはっきりと彩っていた。普段感じている窮屈さも、今は感じない。ただ、きれいに並べられたテーブルに対し、椅子は先ほどまで誰かが座っていたからか少し定位置から崩れていて、それが人のいなくなった後の寂しさを象徴しているかのようだった。
周囲を見渡しながら、私以外誰も室内にいないことを確かめると、手元のスマートフォンに向き合った。
もう君から目を背けるわけにはいかないと思っていた。
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