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スマホを手に取って、軽く息を吸い込む。目を瞑って、閉じ込めた空気を吐き出す。
きっと呼吸を落ち着ける動作って元から落ち着いてるから行えることなんだろうなぁ。
ほんとに追い詰められたとき、呼吸さえ忘れてしまうことは、さっきの体験で嫌というほど分かった。
手元のスマホをじっと見つめる。かつて感じたもの恐ろしさはもう消えていた。
「あの」
誰もいない室内に私の声だけが響いて、やっぱり君は返事をくれない。
「あの、さっきはありがとう」
話して欲しい時に限って会話してくれない身勝手なスマホに若干の苛立ちを感じたのもあり、余分に声を大きくした。
「どういたしまして」
程なくして淡々としたした音声がスピーカからこぼれるように返された。
「やっぱり、話せるんだ」
慣れか、もしくは不可解を識別する脳の部位が麻痺してしまったのか、スマホが返事をしてくれたことに素直に嬉しさを感じていた。
「もう分かってるでしょう」
「まあ」
「怖いですか」
怖くはなかった。
小教室に一人残って、スマホに向かってしゃべりかける女子大生というのは、傍から見たら色々な意味で恐ろしいんだろうけど。
「いや」
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