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「じゃあ今度は僕が先輩に質問いいですか」
田村君は徐に手を高く上げて俯きがちに歩く私に視線を送る。
「いいけど」
「先輩はなんで、蓮さんが好きなんですか」
意想外な質問に思わず顔を上げ、彼を見た。
からかうような質問に反して、田村君はいたって真面目な顔をしているので、何と返せばいいのやらと困り果てるほかなかった。
ただ、返答を考えている間に、ポケットにいれていたスマートフォンから着信音が響いたので、救われた思いでそれを手に取ると、蓮からの電話で、それが救いなのかどうかも分からなくなってくる。
私は、仕方なく立ち止まると「ごめんね。蓮から電話来ちゃったから。先帰ってて」と田村君に気遣うように声をかけた。
「はーい。ではまた」
この偶然を変な冗談だと勘違いしたのか彼はつまらなそうに笑って、私に手を振るとそのまま歩く足を少し早めて帰っていった。
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