4)君が側にいる理由

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夜の帳が降りた町の中で、手に握るスマートフォンだけが淡い光を放ち、画面に着信を告げる蓮の名前を表示していた。 「よう。お疲れ」 耳にあてるといつもののんびりした蓮の声が聞こえ、別に重要な話とかではなさそうだと察する。 「なんで、こんな時間に」 「返信なかったからどうせバイトだろうなと思って。これから俺のとこ来ない」 彼の誘いはいつも急だ。 そのくせ、事前に空いてる日を聞いてもいつも曖昧な返答ばかりで、彼のそういう適当なところにはいつも困らせられる。きっと予定の管理が苦手で、目の前のことだけに目を向けて生きていきたいタイプなのだろうが、振り回されるこっちの身にもなって欲しい。 「また蓮の部屋行くの」 思わず語調が強くなる。 癇に障ったわけではないけれど、深夜に急に電話してきては自室に呼ぶ彼に不快感を示さずにはいられなかった。 「いいじゃん。どうせ明日大学ないし平気でしょ」 蓮は意に介さない様子で笑う。 夜勤終わりくらいもっと気を使ってくれていいのに。 私の思いは喉元を通過して耳に聞こえる振動と化す前に、煮えわたる体内で泡として蒸発する。 他にも言いたいことは色々あった。たまには外でデートしようよとか、あなたの都合に勝手に付き合わされてばかりじゃ嫌だとか。でも、言えなかった。 これが二人の関係を保つうえで出来上がった形だから。よく言えば波風の立たない安定した関係、悪く言えばマンネリ化した関係。適当にうなずいて強引に手を引く蓮に私は仕方なく従うしかなった。 たまには私の気持ちも聞いてよ。 言いたいこと、もう一つ追加で。
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