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「切るね」
言葉をなくした彼に、もうこれ以上話すこともないだろうと画面に手をかざす。
「あの」
「なに」
「今日、まあ12時越したから正確には昨日なんだけどさ。俺たち記念日だったじゃん」
辿々しい蓮の言葉に、私を包む世界はフリーズさせられる。
「えっ」
「プレゼント、買ったんだ。悠那が好きって言ってたブランドのやつ。昨日も今日も悠那バイトでなかなか渡すタイミングなくてそれで」
思いつめたような話声に、なんで彼の気持ちに気づいてあげられなかったのかと自責の念に駆られる。もっと優しくしてあげれば違ってたかなとか、気持ちを察してあげられなかった私がいけなかったのかな、なんて。
「直接会って渡したいって思いが強すぎたのかな、ごめんな。悠那のとこに送っとくし、やっぱり今日は来なくていいよ」
不愉快な気持ちを隠しもしなかった私の返答に対し、蓮の言葉は優しかった。ただその優しさが何よりも辛くて、感謝の言葉さえ口にできなかった。
じゃあなんで、先月の記念日はくれなかったの。
くれないならくれないで統一してくれないと、君との距離感を推し量れないじゃんか。
聞けなかった。やっぱり、聞けなかった。
代わりに心ここに在らずの相槌ばかりが口をつき、気づけば電話は切れている。
プレゼントも気持ちも届かない二人の距離感が果てしなく遠いものに感じていた。
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