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打ち拉がれるような思いに押しつぶされるように、枕に顔を埋める。
「寄ってあげればよかったんじゃないですか」
昨晩は脳が揺れるほどの衝撃を受けたスマホの声もいつの間にか聞き慣れてしまって、私はうつ伏せ状態のまま頭も上げずに応答していた。
「なんでだろうね。どこかで一人になりたいって気持ちがあったのかも」
「恋人なのに、一緒にいたくないのですか」
スマホは子供の如き旺盛な好奇心でも持ち合わせているのか、私の耳元で興味深そうに問いを繰り返した。
「そう言われるとさ。仲悪いみたいだけど、別に嫌いなわけじゃないよ。ただ、朝まで一緒にいるのも疲れるじゃん」
「好きなのに、疲れるんですか」
「好きかもしれないけどさ。結局は違う人同士なんだよね。こういうの、分かるでしょ、私のそばにずっといるんだったら」
「私はただのスマートフォンですよ。あなたの考えてることなんて分かりません」
いつも携帯しているスマホでさえ私の気持ちを推し量ることができないんだったら、この世界で私を理解してくれるような人なんていないんじゃないだろうか。
そんなことを考えていると、もしかしたら自分でさえ自分を理解できていないのかもしれない、という果てしない不安に突き当たってしまい、そんな不安から逃げるように目を瞑った。
「それくらい分かっててよ」
投げやりに放った言葉は私しかいない部屋で虚しく響き渡る。
「明日の天気は分かります」
「はあ?」
「交通情報も、位置情報も、世界中の発明家の名前だって分かります。ただ、人の気持ちは分からないのです。勿論、所有者であるあなたの気持ちだって。ましてや……」
「あなたがなんで泣いてるのかも分からないのです」
分かってるじゃん。暗闇の中で枕に顔を押しつける私の表情は誰にも見られることはないはずなのに。感情を宿した私の所有物はこれ以上は何も言わず、ただ耳元で寄り添う。
私が泣く理由なんて、私が一番分からなかった。
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